ひとが捜し物をする場合,同じ場所をそれとは気付かずに,或いは時には気になって,何度も探してみたりする一方で,肝心の場所には気が回らずに何度も素通りしていた,などということがあります.それは言ってみれば,状況というパターンの類似性による錯覚や既知感と関わっています.
近年,さまざまなヒューマン・インターフェイスは文字や数字からパターンに移行してきました(コンピューターのGUI--Graphical User Interface--はその代表例).今後,画像(映像)や音のように情報量の大きなパターンとひとが接する機会がますます増えてゆく状況では,情報端末などがひとに提示する情報をひとがどのように認識するのかを把握しておかないと,折角豊かな情報を授受できるシステムも,ひとを混乱させストレスを与えるものになってしまいます.
そうなると,ひとが確かだと思う感覚(確信度)やひとの感じる類似性(主観的類似性)がどのような性質のものであるのかを把握することは,大切な課題の1つになります.
今回は,紙の上に小さな円をランダムに配置したパターンを記憶する課題を用いて,再認の確信度と主観的類似度の関係を調べてみました.記憶するパターンは,いくつかのプロトタイプをもとに,それぞれ数個の円の位置をランダムに移動して作ったものです.プロトタイプとの主観的類似度と移動する円の数の関係の実験と,再認の確信度と移動する円の数の関係の実験を行なったところ,再認の確信度と主観的類似度には直線的な関係がある,また,主観的類似度が大きくなっても再認確信度はそれほど大きくはならない(直線の傾きは小さい),という結果が出ました.
結果を示す前にいくつか準備をします.まず,Wilton and File (1975) の再認課題の追試を行なった結果を示します.続いて,実験に用いるための性質のよいパターンを選定するための実験について述べます.それから,``再認の確信度と変換次数''の関係と``主観的類似度と変換次数''の関係を整理し,それらをもとに最終的に再認の確信度と主観的類似度の関係を導きます.